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ブラケットクリープと呼ばれる「所得税のステルス増税」
日本が推し進めているインフレ政策では、物価高に応じて賃上げする、つまり消費する商品の価格が上がると給与が上がるような社会を目指しています。
給料の額面は増えますが、インフレで円の価値が下がっているため、実際には給料は増えていません。
インフレが進むと消費税が増えるという論調もありますが、これも正確には「税額」は増えるけれども「税率」は変わっていないので、賃上げを伴ったインフレである限り、痛税感はありますが増税とまでは言えません。
しかし、現在のインフレ政策のままでは明確にステルス増税されてしまう税があります。
それが所得税です。
日本の所得税は超過累進課税方式(所得額が多いと税額が上がり、さらに税率も上がるので税額はもっと上がる)が適用されており、税率が一定である消費税とはこの点が大きく異なります。
所得税率は所得金額に応じて階層区分(ブラケット)で決められており、インフレによる円の価値の上下に関係なく固定されています。
したがって、物価高と賃上げが同率で上昇した場合、所得税額はそれ以上の比率で増えてしまいます。
この現象を、ブラケットクリープと呼びます。
ブラケットクリープという経済用語まで確立されている、わかりきった現象に対し、必要な政策を講じなければ、これはもう意図的なステルス増税ですよね。
ブラケットクリープで所得税率は跳ね上がる
ブラケットクリープにより所得税率は具体的にどの程度上昇するのでしょうか。
これを確かめるため、所得税の速算表を記載します。
課税所得金額 =(A) | 所得税額 |
195万円以下 | (A)× 5% |
195万円超 330万円以下 | (A)×10%ー 97,500円 |
330万円超 695万円以下 | (A)×20%ー 427,500円 |
695万円超 900万円以下 | (A)×23%ー 636,000円 |
900万円超 1800万円以下 | (A)×33%ー1,536,000円 |
1800万円超 4000万円以下 | (A)×40%ー2,796,000円 |
4000万円超 | (A)×45%ー4,796,000円 |
※ 赤太字が「所得税率」
例えば、課税所得が330万円弱の人が、物価高に対応するため賃上げされて、よくやく生活が普段通りに戻ると思っていたら、所得税率が10%から20%へステルス増税されることになります。
ブラケットクリープへの対策
本来、ブラケットクリープのような税制上の課題は国が対策しなければなりません。
例えば、上記の表に示した課税所得金額の階層区分(ブラケット)をインフレ上昇率に応じて引き上げ修正するような「インフレ調整」は、日本でも1995年まで当たり前に行われてきました。
その後、長期間にわたってデフレの時代が続きましたが、近年は急速にインフレが進行しています。
国が早急にインフレ調整をするものと信じつつ、万が一に備えて個人レベルでも対策しておきましょう。
対策①:所得控除を活用して課税所得金額を下げる
所得控除を用いて課税所得金額を下げれば、インフレ&賃上げで名目所得金額が上昇しても、特に各階層の上限金額ギリギリのところにある人は、ステルス増税を回避できる可能性があります。
所得控除の種類は以下のとおりです。
- 基礎控除
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
- 扶養控除
- 障害者控除
- 寡婦控除
- ひとり親控除
- 勤労学生控除
- 社会保険料控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 小規模企業共済等掛金控除
- 医療費控除
- 雑損控除
- 寄付金控除
このうち、「小規模企業共済等掛金控除」にはiDeCoも含まれます。
2024年からiDeCoの拠出限度額が引き上げられる業種もあるので、まだ活用余力がある場合は検討してみてください。
拠出額は全額、課税所得金額から控除されます。
「医療費控除」も有効な手段です。
確定申告が必要となりますが、申告手続きも昔よりは複雑さが減ってきたので、未活用の人は検討してください。
診療費や薬代だけではなく、通院や入院のための交通費等も医療費控除の対象となります。
控除額の上限は年200万円です。
「寄付金控除」はふるさと納税で活用されている人が多いと思います。
ふるさと納税では返礼品のメリットが紹介されることが多いですが、所得税控除のメリットもあります。
(住民税控除もありますが、住民税は税率一定であり、所得税のような超過累進課税とはなっていないためブラケットクリープの心配はありません)
対策②:所得を分散して課税所得金額を下げる
現役世代の日本人の所得の多くが給与所得です。
公務員はもちろん、企業においても副業を禁止しているところが少なくないので、給与所得しかないという人も多いでしょう。
しかし、給与所得だけでは給与所得控除しか受けられないので、課税所得金額を下げるにしても限界があります。
すぐには難しいかもしれませんが、これからのインフレ時代に対応するため、所得を分散することで各種所得控除を活用して課税所得金額を下げることができるようになれば、ステルス増税を回避できる可能性が高くなります。
所得の種類は以下のとおりです。
- 利子所得
- 配当所得
- 不動産所得
- 事業所得
- 給与所得
- 退職所得
- 山林所得
- 譲渡所得
- 一時所得
- 雑所得
副業所得として一般的な「不動産所得」「事業所得」では、総収入金額から必要経費(固定資産税、修繕費、損害保険料、減価償却費、売上原価、水道光熱費等)を控除することができます。
また、「不動産所得」「事業所得」「山林所得」「譲渡所得」には、損失と利益を相殺できる損益通算という制度があります。
さらに、損益通算しても控除しきれなかった損失額は翌3年間にわたって繰り越すことができるのです。
このため、資産運用の知識・スキル次第では個人レベルでも様々な対策ができます。
FP2級やFP3級の受験勉強でも十分身につきますので、興味のある方はチャレンジしてみてください。
しかし、ブラケットクリープ現象は、本来個人ではなく国が解決すべき問題ですので、ステルス増税とならないように早急に対策してほしいところです。